§3.コーヒーの生産について(コーヒーの特徴を生み出す要素)
3-1. コーヒーの品種
コーヒーは,たとえ育った環境が同じでも,品種によって香味の質が異なります。
品種には大きく分けると,「アラビカ種」,「ロブスタ種」,「リベリカ種」の3つがありますが,
そのうちリベリカ種は全体の1%未満しかなく,ほとんど市場に出回りません。また,ロブスタ種は濃度があ
ることからインスタントや缶コーヒーなどの工業用コーヒー,またはエスプレッソなどによく使われますが,
重い味や枯れた麦のような香が支配的でスペシャルティ・コーヒーにはなりません。従って,スペシャルティ
・コーヒーといった場合には,必然的に「アラビカ種」ということになります。
アラビカ種に属する代表的な品種は,「ティピカ種」と「ブルボン種」です。
この2種類はアラビカの在来種と言われていて,他の品種は自然交配や品行的な品種改良などを経てこの2つのから派生したものになります。
ティピカやブルボンなどの在来種は,上品な酸や甘味,柔らかいボディを持っており,繊細でクリアな香味が特徴です。
一方これらの品種は,気候や病虫害の影響を受けやすく,栽培にも手間がかかります。その上収穫量も少ないため,
次第に生産性にすぐれた改良品種に植え替えられてきました。その結果各産地ともに生産性をあげることには成功しましたが,
肝心の香味については犠牲になってしまったというのが実情です。
こうした中で,優れた香味を持つコーヒーを大切にしようという動きが出てきたのが,
スペシャルティ・コーヒーの一つのきっかけです。こうしたスペシャルティの動きにより,
在来種が見直されるようになりつつあります。ただし,先ほどもお話したように,在来種は香味に優れている分
手間が多くて収量が少ないので,生産者の生活が成り立つような取引価格で取引がなされることも重要となります。
安くて良いものはありません。
3-2. テロワール(生育環境)
ワインの世界では,「テロワール」という言葉がよく使われます。テロワールとは,土壌や地形,日照条件や気象条件など,
生育環境を総合的に表す言葉です。ワインでは,その香味を評価する際に,テロワールがとても重要な要素になります。
良いワインを作り出すのは人ではなく,土であり,気候であり,自然だということですね。
しかも,良いワインにはこのテロワールがその香味の特徴としてきっちりと反映されています。
コーヒーに関しても全く同じで,特徴的なキャラクターを持った優れた香味が産み出されるには,
このテロワールがとても重要になります。では,良いコーヒーを産み出すのはどんな環境でしょうか?
コーヒーの場合,まず大切なのは栽培地の標高です。基本的に良いコーヒーは,1,000~2,0000mほどの高地で栽培されます。
グァテマラなどの中米諸国においては,栽培地の標高がそのまま格付けの基準となっていて,
高い所で採れたものはそれだけで高い値段で取り引きされています。高地産の豆は濃いグリーンをしており,
実がしまって豆質も硬く,良質の酸・コク・香高さを持っています。病虫害の影響が比較的少ないことも,栽培に適している理由と言えます。
次にポイントになるのは日照条件です。コーヒーは強烈な陽射しに対して弱い植物なので,
適度に和らげてあげる必要があります。よく用いられる方法はシェイドツリーと言われるもので,
コーヒーよりも背丈の高い木をある程度の間隔で植えておきます。これによって陽射しが適度に弱まり,
コーヒーが健全に成長できることになります。また,雲や霧などの自然条件によって陽射しが緩和されたり,
あらかじめ山の東側または南東側の緩やかな斜面を選ぶことで陽射しを緩和する場合などもあります。
また,一日における寒暖差が大きいことも重要な条件です。コーヒーはある程度気温が高くないと十分な光合成が出来ません。
光合成によって作られた栄養素がコーヒーのおいしさになるので,これはとても重要です。
一方,夜間において気温が低いと,コーヒーの木はその分休眠状態になるので,日中に作られた栄養素を自家消費することなく,
しっかりと実の中に蓄えることが出来ます。日中と夜間との温度差がしっかりと生じる場所では,
酸がしっかりとして甘味の豊かなコーヒーができることが多いです。
その他,年間を通じてある程度気温が安定し適度な降水量があること,
良質の火山灰質土壌であることも大切な要因となります。
こうした諸条件がそろったテロワールによって,良質のスペシャルティ・コーヒーは産み出されます。
3-3. 精製と乾燥
「精製」とは,収穫後のチェリーから果肉を取り除き,種子であるコーヒー豆を取り出す作業のことです。
品種やテロワールのみならず,どのように精製処理されたかということもコーヒーの香味を決める大切な要素の一つです。
精製方法の種類は大別すると「乾燥式(Natural,Unwashed)」と呼ばれるものと,
「水洗式(Washed)」と呼ばれるもの,
それから両者の中間的な方法があります。
ナチュラルと呼ばれる乾燥式の精製方法は,収穫したチェリーを乾燥場に広げ約一週間ほどの間天日乾燥をし,
その後脱穀作業を行うものです。最も単純で原始的な方法です。熟成感のある香味とまろやかな舌触りがあり,
元のチェリーの状態が良ければ優れた香味になります。ただし,欠点豆や異物が混入しやすいため,不純物の選別に
かなり気を使わないといけません。
また,豆の外見も水洗式に比るとあまりきれいではありません。
この点でスペシャルティとして評価されることは難しいと考えられます。一般的には水洗式処理で選別漏れしたグレードの低い豆などに
用いられることが多いですが,特徴的な香味を作り出すためにあえて乾燥式で精製する試みも最近では行われています。
一方,ウォッシュと呼ばれる水洗式の精製は,欠点豆や異物の混入が少なく,きれいな香味に仕上がる可能性の高い方法です。
現在ほとんどの産地で,この水洗式の方法が採用されています。まず収穫したチェリーを水槽に入れ,不純物や未熟豆などを取り除いて
一次選別を行います。次に果肉除去機にかけ外側の果肉と内側の種子とを分離,さらに発酵槽と呼ばれる水槽に半日~一日漬けておき,
微生物の作用によって種子表面に付着するぬめり成分を取れやすい状態にします。その後豆を水洗いしてぬめりを除去した後に,
天日または機械による乾燥作業を行います。この果肉とぬめりを除去した脱穀前の状態をパーチメントと言い,
数週間倉庫に保管されたのち脱穀して輸出されます。
その他,両者の中間的な方法として「パルプド・ナチュラル」や
「エコ・ウォッシュ」と呼ばれる方法もあります。
パルプド・ナチュラルは,チェリーから果肉除去したパーチメントをぬめりがついたままの状態で天日乾燥する方法です。
一部では甘味の出る方法として評価されハニー・ウォッシュとも呼ばれます。また,エコ・ウォッシュは,果肉を除去した
パーチメントを水槽につけずアクアパルパーと呼ばれる機械で,ぬめりを除去するものです。使用する水の量が少なく,
環境に配慮した方法として採用するところも多いようです。
精製後の「乾燥」工程に関しても様々な方法があります。
大きく分けると天日乾燥と機械乾燥,
両者の併用となります。天日乾燥の場合には,パティオと呼ばれるコンクリートやレンガ敷きの乾燥場に広げるのが一般的ですが,
テントを張って陽射しを柔らかく当てる陰干しや,アフリカンベッドと呼ばれる乾燥台を使った棚干しまたは
ウインド・ドライと呼ばれる方法などもあります。乾燥の方法によっても香味のニュアンスは大きく変わるので,
それがその豆の香味を特徴付ける要素の一つになります。