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§4.スペシャルティ・コーヒーについて

4-1. スペシャルティ・コーヒーの定義

 スペシャルティ・コーヒーという言葉は最近よく使われるようになりましたが, 実際には,何がスペシャルティなのかしっかりと理解できていない場合も多いようです。 スペシャルティ・コーヒーを理解するためには,まずはその定義から考えなくてはなりません。 では,スペシャルティ・コーヒーってどんなコーヒーなのでしょうか?

 歴史的に見ると,1978年にフランスのコーヒー国際会議におけるアメリカのErna Knutsen女史の言葉が, スペシャルティ・コーヒーの語源と言われています。以下がその時の言葉です。

 『 special geographic microclimates produce beans with unique flavor profiles 』

 直訳すると,「特別の気象・地理的条件がユニークな香気を持つコーヒー豆を育てる。」ということになりますが, §2~3でお話したことがそのまま表れていますね。ただこの時点では,定義というよりもまだ基本概念という感じでしょうか。

 1982年に設立したSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)を中心として, その後客観的な評価基準が整備されてきました。世界的にもこのSCAA基準を基本としてスペシャルティ・コーヒーが整理されてきています。
 コーヒーの香味は,基本的にカッピングによって評価されます。 (カッピングの具体的な方法については,次節で説明します。)SCAA基準に従ってでカッピングした際に, 80点以上のものがスペシャルティ・コーヒーです。以下,60点以上がプレミアム,40点以上がスタンダード, それ以下になると低品質豆としてそれぞれ扱われることになります。ニューヨーク相場で決まるスタンダード(一般流通規格)の価格に対し, プレミアムやスペシャルティの豆は価格が上乗せされて取引されるため,スタンダードの2~3倍,場合によってはそれ以上となるのが普通です。

 再びKnutsen女史の言葉に戻ってみると,ただおいしいというだけで高得点がついてしまっては, 本来のスペシャルティ・コーヒーの概念には少々沿わない点が出てきます。この辺りを踏まえて要点を整理すると, 次の三つの条件が,具体的なスペシャルティ・コーヒーの定義ということになるでしょう。

  1. いつ,誰が,どこで,どうやって,何を栽培したか,が明確であること。
    (トレイサビリティ)
  2. コーヒー豆の栽培品種や生育環境,精製方法などの特徴が,
    その香味のキャラクターとしてしっかり表れていること。
  3. SCAA基準による採点で,80点以上の高い評価を得ていること。

 こうした高い評価を受けた豆も,最終的に消費者の方々が一杯のコーヒーとして楽しむ段階でその良さが表現されなければ, 全くもって意味がありません。結局のところ,栽培や品種,精製,焙煎,鮮度,抽出など,一杯のカップにいたるまでの全てのステップにおいて, ベストが尽くされて産み出される優れた香味をもつもの,それが"スペシャルティ・コーヒー"ということになります。

4-2. スペシャルティの香味と評価の方法

 従来,コーヒーの味といえば,苦味と酸味とのバランスで2次元的に表現されるのが一般的でした。 例えば,モカやキリマンジャロと言えば酸味が強く,ブラジルやマンデリンと言えば苦味が強い,といった具合に。 しかしスペシャルティ・コーヒーの場合には,どれだけ多くの香味要素によってその複雑なキャラクターが構成されているか, がポイントなので,従来のように2次元的に香味を表現することはできません。

 スペシャルティ・コーヒーの評価は,基本的にカッピングによってなされます。 カッピングとは,コーヒー粉を入れたグラスに直接お湯を注ぎ,しばらく放置した後スプーンで上澄みをすすって香味を感じとる方法です。 通常のドリップに比べると,抽出の過程で人的な要因が少ないため,コーヒーの持つ香味を客観的に判断することが出来る方法です。

 カッピングでは,香りボディ余韻甘味などについて評点をしていきます。 また,全体のバランスや香味のきれいさなども評価の対象です。 それぞれの要素がどのくらい優れていて,なおかつ品種やテロワールなどの特徴がしっかりと反映されたカップかがポイントとなります。 それぞれの特徴を表すのには,例えば次のような表現が用いられます。

①香り(Fragrance,Aroma)ナッツ,バニラ,花,果実,草,カラメル,ハーブ など
②酸(Acidity)オレンジ,ピーチ,マンゴー,ヨーグルト,レモン など
③ボディ(Body)バター,スムース,ベルベット,絹 など
④余韻(Aftertaste)長い,きれい,甘い など
⑤甘味(Sweetness)強い,きれい など

 ディフェクトと呼ばれる悪い味も評価の対象にはなりますが, スペシャルティ・コーヒーの場合にはマイナス要素がないというのが前提なので,基本的にはチェックされないことになります。 "おいしい"というのは基本的に当り前で,"どのようにおいしいのか","どれだけおいしいのか",という優れた香味についてプラスの評点をします。

 また,よくコーヒーの味の要素として"苦味"があげられますが,スペシャルティ・コーヒーの評価には苦味の項目はありません。 これは,コーヒーの味を構成する要素は基本的に"酸味"であって,コーヒー本来の植物の味としては苦味はないからです。 普段感じる苦味は,焙煎という加工を経て初めて発生する要素で,極端な言い方をすれば焼け・焦げによって後から生じた味になります。